今年もあと2ヵ月足らずになった。間もなく寒い冬を迎える。もしガス会社に「来年からガス料金を2倍強、引き上げます。ご納得頂けないようであれば、ガスを止めさせて頂きます」と通告されたら、あなたはどうするだろうか?
ロシアの天然ガス独占企業「ガスプロム」は2日、グルジアへ供給する天然ガスの料金を2007年から2倍強に値上げする、と発表した。これまで1,000m3につき110ドルだったのが、230ドルになる。グルジアは天然ガス需要の100パーセントをロシアに依存する。貧乏国グルジアにしてみれば「そんな金、どこを搾っても出てこないよ」という思いだろう。
折りも折り。この「ガスプロム」の値上げ発表は、グルジアのベズアシビリ外相の訪ロ中に行われた。外相は、ロシアとの間で続くアブハジアと南オセチアの領土紛争をめぐってロシアのラブロフ外相と会談するため、ロシアを訪れていた。会談の最中に値上げが発表されたというから、これ以上の嫌がらせはない。
親露派逮捕と経済報復の応酬
2008年のNATO入りを目指して西側への接近にアクセルを踏み込むグルジアと、それに異議を唱えるロシア。両国の関係は今秋から一段と緊張の度を増していた。機先を制したのはグルジアの方だった。親露派の元国家安全相と親露派野党議員など計30人を国家転覆の容疑で逮捕、続いてグルジア駐在のロシア軍将校4人もスパイ容疑で逮捕したのだ(いずれも9月)。
これに対してロシアはグルジア労働者の強制送還、送金停止、アエロフロートの運航休止などの経済報復に出た。経済をロシアに大きく依存するグルジアには痛手だ。
両国はもともと、南オセチアとアブハジアの2地域で領土紛争を抱えており、軍事面での対立があった。逮捕劇と経済報復の応酬は不測の事態を招くのでは、との懸念が高まっていた。このため、EUのソラーナ外交・安全保障担当上級代表やOSCE(欧州安全保障機構)のデ・フフト議長といった大物が、事態の沈静化に動いたほどだ。
国際法違反のパイプライン敷設
1,000m3につき230ドルという価格は、ヨーロッパ諸国への料金(230~250ドル)と同等だ。2倍強に値上げしておきながら「国際的な市場価格にあわせただけ」とロシアがうそぶいても、それはそれで、表面上は理屈は通る。
だが、同じCIS国家のウクライナとアルメニアへの供給価格と比較すると、ロシアのいう「国際的な市場価格」という説明は、にわかに怪しくなる。
オレンジ革命でロシア離れを見せたウクライナに対してロシアは、昨年から今年始めにかけて天然ガス料金の大幅値上げ、あるいは供給停止を唱えて圧力をかけた。だが親露派のヤヌコビッチ首相が就任したこともあり、135ドル/1,000m3という供給価格で10月末に合意に達している。親露政権のアルメニアに至っては、09年まで110ドルという低価格で購入できる。
グルジアに対する供給価格には、ロシアの政治的な恫喝が込められていることがよく分かる。
グルジアへのガス料金の値上げ発表の直前、ロシアはグルジアの度肝を抜いた。グルジアからの独立を目指す南オセチアに天然ガスパイプラインを敷設し始めたのだ。
「南オセチアはグルジアの領土である。(グルジア政府の断りなくパイプラインを敷設するのは)国際法違反である」とグルジア外務省は抗議声明を発表した。
ロシアと断絶しても、グルジアはアゼルバイジャン、トルコ、イランから天然ガスを購入する途が残されている。だが、ロシアよりも高い価格となる。CISの貧乏国グルジアは、いやでもロシアとお付き合いする他はないのが現実なのだ。
本記事は「FINANCIAL TIMES」「New York Times 」「Radio Free Europe」などを参考に執筆しました。