「複雑な手術は当外科病院へ」「医療過誤をめぐるトラブルは当法律事務所へ」。アメリカ三大ネットワークのひとつCBSで放映されているCMだ。
国民皆保険制度のない米国。民間保険会社が運営する健康保険は、高額なかけ金を要する。金持ちのためだけにあるような医療保険制度だ。テレビCMはそれを象徴するものだが、保険会社によるマッチポンプとも取れる。
米国の庶民が超格差社会に抗議して占拠するウォール街ズコッティ公園の一角に「メディカル・センター」がある。医者が8人、看護師が15人登録しており、入れ替わり立ち替わりボランティアで診療にあたる。1日平均40人近くの患者が訪れる。
看護師のマリアさん(22歳)によれば、患者の症状で多いのは風邪、インフルエンザ、高血圧、貧血などだ。栄養状態が良くないことに起因する病気がほとんどである。「多くの患者は10年以上も病院にかかっていない」。マリアさんは首を横に振りながら話した。
メディカル・センターは、全米に広がる「Occupy(占拠)行動」のすべての現場に設けられている。運営にあたるのは、看護師の労働組合である「National Nurses United」だ。
「Occupy行動」に共鳴してズコッティ公園にやってくる米国人は珍しくない。アイオワ州から来たティムさん(30才)もその一人だ。テントの中から顔を出して事情を聞かせてくれた。無名詩人のティムさんは収入が少ないため健康保険には加入していない(できない)。
「健康保険は金持ちのためにある。中間層は所得のすべてを保険に払うようなものだ」。ティムさんは憎々しげに語った。
「もし病気になったらどうする?」と聞くと「(自分は保険に入っていないため)病院に行っただけで500ドル(4万円)取られる。それに薬代やら診療代が付く。とても病院には行けない」と答えた。そら恐ろしくなるような現状を30才の青年があっけらかんと語る。ティムさんは最後に「(米国の)保険制度はイリーガルだ」。
今回の「Occupy行動」を支え、庶民には苛酷な医療現場の実態を見てきたのが看護師たちだ。彼らの労働組合「National Nurses United」は3日、 財務省に事態の抜本改善を求めて、ワシントンDCへバスを連ねる。