今回の取材行ほど世界の狭さを感じたことはなかった。米金融資本の総本山「ワールド・トレード・センター」にアラブ人テロリストがジャンボジェット機で突っ込んだ「9・11」事件。
全米各地に広がる「Occupy(占拠)行動」発祥の地であるズコッティ公園は、このワールド・トレード・センター跡地から直線距離にして50mと離れていない。99%の庶民が1%の富裕層のお膝元で、「もう搾り取るのはやめてくれ」と抗議を続けているのである。
「Occupy(占拠)行動」は「アラブの春」の影響を受けているといわれる。富と権力を一手に握る独裁者を民衆の力で倒したのが「アラブの春」だった。
ウォール街のど真ん中にあるズコッティ公園は、夕方ともなれば仕事を終えた人々で膨れ上がる。激しく打ち鳴らされるパーカッションのリズムのなか、占拠者や飛び入りの参加者たちは思い思いにシュプレヒコールをあげる。内容は「強欲資本主義」への批判に収れんする。エジプトのムバラク独裁を打倒した「タハリール広場の蜂起」と同様の熱気だ。
占拠者の男性(40代)は「『Occupy行動』は『アラブの春』にヒントを得た。アナキズムでも反資本主義でもなく直接民主主義だ」と語る。
「Occupy行動」は国際社会の脚光を浴びるようになり、アラブ世界からの“応援団”も目につくようになった。移民の国アメリカといえどもスカーフ姿は人目を引く。30代のエジプト人女性は、連帯を訴えてアメリカまでやって来た。
「『エジプト市民革命』と『Occupy行動』には共通するものがある。政府に対する怒りとフラストレーションだ。私はエジプトの市民運動とアメリカの「Occupy行動」を連動させたい。米国の納税者は中東の軍事援助のために税金を払いたくないはずだ」。女性は真っ直ぐに相手を見つめながら語った。
カリールさん(男・29歳)は、ニューヨーク・ウォール街の「Occupy行動」をひと目見ようと友人4人と共にカイロから訪れた。「アメリカには完全ではないが民主主義がある。だが、人々は恩恵を受けていないようだ。金は裕福な人のポケットに入り、庶民は最低限の賃金に甘んじている。『0ccupy行動』は大資本に対する運動で性質は違うが、『エジプト市民革命』と同じ意識を感じる」。
民主主義の本場アメリカは、その足元が大きく揺らぐ。「9・11」から10年が経ち、中東から「アラブの春」となって民主主義が“逆輸入”されてきたことは皮肉である。 (つづく)