日米のマスコミ記者の違いを、これほど見せつけられたことはなかった。3日に起きたピューリッツァー賞受賞記者の逮捕劇のことである。
クリス・ヘッジズ氏(55歳)。海外特派員として20年に渡り中米、中東、アフリカ、東欧情勢を見つめ、2002年にはニューヨークタイムズ取材陣の一員としてピューリッツァー賞を受賞する。
超格差社会を作り出し庶民を生活苦に落とし込む米金融資本の総本山「ゴールドマン・サックス」に、100人余りの市民がデモをかけた。デモ隊の中には、クリス・ヘッジズ氏の姿があった。
一行のうち10数人はゴールドマン・サックスが入るビルの玄関前で座り込んだ。ヘッジズ氏も一緒に腰を地面に据える。「座り込みを止めて退去しなさい。さもなくば逮捕する」、ニューヨーク市警の現場班長が拡声器で警告した。
誰一人として警察の警告にたじろがない。皆、腕を絡ませ合って引き抜かれないようにした。それでも一人また一人と警察にゴボウ抜きにされていった。ピューリッツァー賞受賞者のヘッジズ氏とて例外ではなかった。
逮捕されるたびに、デモ参加者からは「“Shame(警察は)恥を知れ」と怒声があがった。クリス・ヘッジズ氏逮捕の瞬間、怒声はひときわ大きくなった。
デモに先立ち市民集会がウォール街のズコッティ公園で開かれた。同公園は全米に広がる「Occupy行動」発祥の地だ。地元ラジオ局が中継するなか、ヘッジズ氏は次のように発言した―
「東独の反体制派リーダーと会った時、『(東西ドイツの統一は)多分一年後くらいだろうね』と語りあっていたら、1時間もしないうちにベルリンの壁が崩壊し、東西を行き来する人々で溢れた。改革を信じて前進することが大事だ。途中であきらめるな」。
政治体制の崩壊を幾度も見てきたヘッジズ氏は、革命前夜の雰囲気がわかるのである。
日本でジャーナリストがこうした発言をすれば、「アジテーションはやめろ(煽るな)」「報道と自分の意見をごっちゃにするな」と批判される。欧米のジャーナリストは現場で得た情報から危機を予見した場合は、踏み込んで発言する。日本の記者クラブメディアは「政府や学者がこう述べている」が中心だ。しかもこれを客観報道と称して自画自賛する。
ヘッジズ氏はイラク戦争に反対する発言で、会社から疎んじられるようになった。2005年、NYタイムズを退社する。
これも日本の記者と対極的だ。日本のマスコミはこぞって、ブッシュ政権のイラク攻撃を支持した。連日の戦争推進キャンペーンは記憶に新しい。だが大量破壊兵器は発見されず、イラク攻撃が過ちだったことが判明する。ブッシュ政権幹部が戦争は過ちだったと認めている。にもかかわらず日本の記者は誰ひとりとして「報道は過ちだった」とは言わない。
小泉政権下の郵政民営化、そして今、TPPをめぐって記者クラブメディアは政府とともに「進め進め」の大号令をかけている。米金融資本が仕掛けた郵政民営化とTPPが庶民を疲弊させることを、記者であれば知っているはずだ。
イラク戦争に反対したクリス・ヘッジズ記者は、今度は米金融支配に抗議して警察に逮捕された。権力に寄り添い特権をむさぼる日本のマスコミ記者とは、雲泥の差がある。