官邸前がパレスチナと化した。金曜日恒例の原発再稼働抗議集会で先週、先々週と車道に参加者が溢れ出たことを重く見た警察は、歩道と車道の間を鉄柵で区切ったのである。
所轄の麹町警察署警備課は電話取材に「群衆警備のため」と説明した。「テロを防ぐため」と称してパレスチナの民を囲い込む「壁」と同じではないか。パレスチナの壁を計画段階から取材・報道していた筆者には、そう思えて仕方がなかった。
高さ1・5mはある鉄柵は支えまで付いており、相撲取りが押しても倒れない。それが官邸前交差点から霞が関方面に向けて100m余りも続く。その先は機動隊の輸送車が数珠つなぎになり、歩道から車道には一人たりとも出られない。
次から次へと参加者が押し寄せて来ても、財務省方面や議事堂方面に逸れるしかないのだ。
原発推進に固執する野田政権にとって再稼働反対派は、イスラエルにとってのパレスチナ人のような存在なのかもしれない。『官邸前に賑々しく人を集めるな』『間違っても参加者を車道に溢れさせるな』。そんな指令が官邸から飛んだのだろう。
野田政権の原発推進政策に反対する運動が広がりを見せている―そんなイメージを国民に持たれたくない。解散総選挙が近いだけに余計危機感を募らせているものと見られる。官邸の目論見は一応成功した。
野田政権と警察の窮余の一策とも言える鉄柵は、しかし、参加者たちの間ですこぶる評判が悪い。
「ふざけんじゃねえ。国民が自分の意志を表すために集まって来ているのにこんな鉄柵をつけるのはおかしい。これだけの人が来るのだから車道を開放すべきだ」(中野区・女性=50代)。
「初めて官邸前に来たら鉄柵があった。ものものしい雰囲気にびっくりしている。ノーと言える子供を育てたい。今日は子供たちに教室を休む理由を説明してきた」(名古屋・音楽教室を営む女性=50代)。
警察の規制が厳しくて官邸に近づけない参加者のために、国会議事堂前には第2ステージが設けられた。ファミリーエリアでは親子で「再稼働反対」を叫ぶ姿が目立った。官邸前をはるかに上回る人出だ。こちらの方が車道に溢れるのではないかと思えるほどの熱気だった。インティファーダ(蜂起)にも似た迫力だ。
いくら規制しようが、それを潜り抜けて抵抗する。再稼働反対を叫ぶ市民たちがパレスチナの民と重なって見えた。
《文・田中龍作 / 諏訪京》
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