福島県放射能リスクアドバイザーにして「Mr.100mSv」の異名をとる山下俊一・長崎大学大学院教授。現実離れした「放射能安全神話」を撒き散らし世論の反発が強いため、最近は自らの講演の録音、録画を禁止したと伝えられる。
そんな山下センセイが飯舘村で村議会議員と村職員を対象に非公開でセミナーを開いていた(4月1日午後、村役場)。今中哲二・京都大助教の調査により飯舘村の土壌からチェルノブイリ原発事故の強制移住区域と同じレベルのセシウムが検出され、文科省の調査でもセシウムが高い値を記録した直後のことである。マスコミ報道で動揺する村民をなだめるためだ。
この頃、山下センセイはテレビ番組でもしきりと「福島の人は放射能を浴びても心配することはない」と吹聴していた。通信環境が劣悪でネット情報に接する機会が極めて少ない村人は、山下センセイの御高説を信じきってしまったのである。
村職員や村議会議員から得た情報をもとに「山下教授・洗脳セミナー」の全容をここに再現する――
「長崎、広島の被爆者の研究データに基づいた話をします。IAEAの発表がありましたが、その基準も長崎、広島の被爆者の研究データに基づいて作られている発ガン性のリスクであり、データは正しいものだと考えています。」
「 1度に100mSv/h以上の放射線を浴びると発ガン性のリスクが上がります。放射線は赤外線などと同じで、近づけば熱いが離れれば離れるほど影響はなくなるので、今、福島第1原子力発電所で出ている放射線は、40km離れている飯舘村までは届きません。 問題なのは、放射性降下物(塵のようなもの)が降ってくることです。」
「IAEAの出したデータは、正しいのですが、物理的なデータは出せるが、そのデータが持つ意味、健康に対するリスクにどのくらい影響を与えるのかをきちんと話せる人、専門家がいません。」
「今の飯舘村の放射線量(Sv/h=シーベルト/時間)では、外部被ばくは全くありません。問題は、内部被ばくです。今日は内部被ばくの話しをしに来ました。皆さんは、普通に生活していても年間1.5mSvの放射線を浴びています。自然界から浴びる放射線の量はその場所によって違う。ブラジルでは年間10 mSvの放射線を浴びる地域もあります。」
「放射線量は、シーベルトやベクレル、グレイなど色々な単位が使われるので分かりにくい。注意すべきはシーベルトです。放射線の被ばくは、1回で浴びるのと蓄積して浴びるのでは大きな差があります。」
「小さな量の被ばくは、全く健康被害はありません。人間は代謝しているからです。1mSv/hを1回浴びると1個の細胞が傷つきます。詳しく言うと1つのDNA(遺伝子)が傷つくのです。しかし、人間はそれを直すことが出来る仕組みを持っています。」
「DNAは、たばこを吸ったり、酒を飲んだりしてもが傷つきますが、全員がガンになるわけではないことからも、直す仕組みを持っていることが分かってもらえると思います。」
「100mSv/hの放射線を1回浴びると100個の細胞が傷つきます。1個くらい直すときに間違えるときがある。1000mSv/hだと1000個の細胞が傷つく。そうすると3個位間違えてしまう。発ガン性のリスクが高くなります。しかし、そのガンになるリスクは決して高いものではありません。たばこを吸う方がリスクが高いのです。 今の濃度であれば、放射能に汚染された水や食べものを1か月くらい食べたり、飲んだりしても健康には全く影響はありません。」
「チェルノブイリでは、消防士などが31人死亡し、276人が急性放射線障害になりましたが、9割は助かりました。この人達は原発のすぐ近くにいて被ばくした人達です。ですから今福島第1原発で復旧の作業をしている人達は同じようなリスクがありますが、飯舘村にいる人達は原発から30km以上離れていますから、急性放射線障害になったりすることはありません。私たちは、半径10km圏内の人の避難訓練を毎年やっていますが、現在の20kmはそれより広いので、その外側にいる人は原発からの直接の外部被ばくは全くありません。」
「チェルノブイリでは、事故からソ連崩壊までの5年間の間に、住民に対して情報を伝えていませんでした。そのため、500万人の住民達が放射能に汚染された食物を食べ続けました。その中で、健康被害があったのは小さい頃に放射性ヨウ素に汚染された牛乳を飲み続けた子どもたちでした。甲状腺ガンになったのです。」
「牛は、被ばくすると甲状腺にヨウ素を蓄積します。それが牛乳に沢山出てくるのです。それを飲んでいた子どもたちが、事故後5年を経過する頃から甲状腺ガンになったのです。」
「放射性ヨウ素の半減期は8日なので、2か月でゼロになります。この2か月間注意すれば良いでしょう。ヨウ素は粉塵になりやすいので、風が強くホコリが舞い上がるときは外に出ないなどの対策が必要となります。」
「放射性セシウム137の半減期は30年ですが、雨が降れば洗い流されるので減っていきます。放射性セシウムが体内に入った場合、2か月で半分になります。セシウムはカリウムと同じような動きをするため、筋肉に集まる性質がありますが、筋肉は、命に関わる重大な臓器ではないためリスクは低い。チェルノブイリでも肉腫(筋肉のガン)になった例は報告されていません。また、カリウムと同じように尿となって体外に排出されます。」
「今後は、モニタリングが大切になってきます。放射線量の高い場所=ホットスポットの対策は別に行うことが必要です。外で遊べるかどうかなどの安全基準を行政が出すべきです。リスクの高い子どもと妊婦をどう守るかが、大切になってきます。」
「現在、20歳以上の人のガンのリスクはゼロです。ですからこの会場にいる人達が将来ガンになった場合は、今回の原発事故に原因があるのではなく、日頃の不摂生だと思ってください。長崎や広島で被ばくに会った人たちは、5年後に白血病になる人が増え、10~20年後に固形ガンが増えました。60年以上経つと多重ガンになる人が増えました。」
「放射性物質は、同心円状に広がるわけではないので、その意味からもモニタリングは大切です。これからは、『環境リスク』の管理が大切になってきます。」
【福島、飯舘村は風評被害と闘うシンボル】
セミナー後半は質疑応答となった。出席者は一様に「飯舘村が放射能汚染されている」との報道に不安を抱いており、次々と質問の手が挙がった。山下センセイは何食わぬ顔で「安全、大丈夫」と説いた。
質問:「健康面で安全なのはお話を伺ってわかった。しかし、『安全だ、安全だ』と言われると不安になる人もいる。」
山下:「人間の感性はそういうものであると思う。また、火もとが治まっていないため安心感が持てないでいる。直接的な被ばくは現状が続けば全くない。」
質問:「原発の従事者は被ばく上限が年間50mSvであるに対し、一般人は年間1mSvである。差があるのはなぜか。」
山下:「一般の人の被ばく上限は1歳の子どもを基準に作られている。また、一般の人が不用な被ばくを受けることがないように数値が設定されている。従事者は20歳以上なので50mSvでも問題がない。ガンのリスクが上がるのは年間100 mSv以上である。それ未満であればリスクはゼロと考えてよい。」
質問:「32番(注:飯舘村飯樋地区)の観測点の数値が高い。MAXで140μSv/hで、現在でも38μSv/hである。今までの値で足し算をしていくと、1mSvには20日くらいで達してしまう。大丈夫なのか。」
山下:「福島で3月15日に20μSv/hであった。先程話したように人間は新陳代謝によって新しく細胞を作り出しているのでμSv/h(マイクロのレベル)であれば全く問題ない。10μSv/hまで下がればより安心である。
現在、メッシュで土壌検査を行っているので、その結果、値が高いところを重点的に、マンパワーを投入して行くことが大切だろう。福島や飯舘村が取り残されて良いわけがない。国や様々な機関、世界各国からの支援も受けて復興させていくべきである。」
質問:「妊婦や子どもを守っていくことが大切だとの話だが、具体的にはどのような対策を講じればよいのか。」
山下:「一般人の年間の被ばく限度は、1歳の子どもを基準に作成されている。妊産婦は安全なところへ避難された方が精神的なケアも含めて考えると望ましいと思う。ここで頑張ろうと言う人がいてもそれはそれで良いと思う。」
質問:「先生によって色々な話があって良くわからない。また、安全だと言いながら、一方では摂食制限をしていたりして矛盾を感じる。飯舘村は農業の村なので、いま作付けをしないと今年の収穫は望めない。」
山下:「専門家の間で意見が分かれるのは、100mSvを超えないとリスクは生じないという考え方と100mSv以下でも放射能の値に比例してリスクがあると考えるかの違いである。私は長崎と広島の被ばく者、チェルノブイリの被爆者の経験を基にお話をさせてもらっている。先日、首相官邸に呼ばれたが、国の仕事はお断りした。その理由は今私を必要としているのは福島だからである。情報の確かさは国より福島県の方が上だ。」
質問:「セシウムによる土壌汚染が心配。『日本で最も美しい村』が世界で最も汚染された村になってしまったのではないか。風評被害も心配だ。」
山下:「福島は、飯舘村は風評被害と闘うシンボルである。また、そうなっていかないといけないし、私も精一杯応援をしたいし、一緒に闘って行きたいと思っている。」
質問:「飯舘村は、小学校、中学校を隣町の川俣で開設する予定である。安全であればその必要性はないとも思うがどう考えれば良いか。」
山下:「モニタリングをすることが大切である。放射線は計ることが出来るので、調査して安全宣言を出すとか、計測機器を設置して基準値以下であることを公開すれば安全が確認できる。」
質問:「先生の話を直接聞けば安心する。もっと多くの村民を対象に今日のような話をしていただけないか。」
山下:「放射線に関しては、正しい恐がり方をすることが大切である。長崎大学以外にも広島大学の先生達も福島に入っているので、協力を得て行くことも可能ではないか。私も協力は惜しまない。出来るだけ対話形式で不安を取り除いていきたい。今回の問題で、メディアの責任は重大です。政府や関係機関が正しい情報を出し、それをメディアが正しく市民に伝えなければならない。その上で、市民は正しく理解する努力が必要だ。そして正しく行動をする。今、この3つが大切。
「明日、福島県立医科大で、長崎大学、広島大学、京都大学などの専門家が集まって、市民が混乱しないように情報の出し方を統一するための会議を持つ。大変重要な会議になると思う。」
「バックグラウンドで年間0.05mSvの放射線を浴びている。世界ではバックグラウンドでもっと高いところがあるが、リスクは高くならない。今の値であれば、10μSv/hであれば外で遊んでも大丈夫だ。」
質問:「水道水の安全宣言は出されたが、井戸水は安全か。」
山下:「水道水のセシウムは水道施設の濾過装置で駆除することができる。家庭用のフィルターでは保証できない。井戸水は井戸に蓋をしてあれば土壌がフィルターの役割をするので駆除できるため、問題ない。沢水はセシウムを除去できないので飲まないように。」
質問:「今日の話を聞いて安心したが、このような話を国に提言してはどうか。」
山下:「今までも何度か提言を行ってきている。官邸と意思疎通していきたい。」
質問:「値の高い地域=ホットスポットの具体的な対策は?」
山下:「値の高い地域の対策をこれからどうするのかということは、最も大切なことだと認識している。しかし、土壌汚染に関しては日本には基準がないので、今後基準が示されていくと思う。また、モニタリングの結果がでれば、放射能の高低を示した天気図のようなものが出されると思う。ここから先は環境アセスメントの専門家の仕事になると思う。」
質問:「外遊びさせる際にマスクは必要か?」
山下:「花粉対策には必要だが、放射線の予防にはあまり役立たない。それより、外で遊んだ場合はシャワーを浴びたり、顔や手を良く洗うこと、うがいをするなど、インフルエンザの予防策と同じ対策が有効である。人間は代謝をするので今の放射線の量であれば、タバコを吸うよりずっとガンになるリスクは低い。」