国のエネルギー政策を壟断してきた男は、この日も狡猾だった。東電福島原発の事故原因を究明する『国会事故調』は14日、電力業界のドンだった勝俣恒久・東電会長を参考人聴取した。「知らぬ存ぜぬ」を通す勝俣会長に事故調の追及は決め手を欠いた。
電事連(電気事業連合会)が政府への圧力団体であることは、つとに知られている。ロビー活動を通じて規制を骨抜きにするのである。野村修也委員(弁護士)は、電事連の事実上のリーダーとして勝俣氏が果たしてきた役割を追及した――
野村:「原子力安全・保安院が06年、スマトラ沖大地震・津波を教訓にシビアアクシデント対策を打ち出したにもかかわらず、電事連の抵抗により対策は実現されなかった。保安院が“電源喪失が起こりうる”として部下(東電社員)に伝えたのをご存じか?」
勝俣:「存じません」
野村:「“非常に大事だから上層部にあげてくれ”と保安院は伝えているんですよ?」
勝俣:「(原子力事業)本部長どまりだったことは今後の課題」
先ず「知らない」とシラを切り、事実を突きつけられると「今後の課題」などと言ってかわす。勝俣会長の巧妙なところだ。
責任回避も天下一品である。追及されると勝俣氏は「その責任は(原子力事業)本部長」「それは発電所長」「それは社長」と臆面もなく答えた。
そのくせ事故当時の菅政権の対応を批判した。勝俣会長は「官邸がダイレクトに(福島第一原発の)吉田所長に連絡するのは好ましくない」と言ってのけたのである。
その一方で「官邸に現場(福一)が困らされた時押し戻すのが会長の役割ではないか?」と追及されると、勝俣氏は「総理の指示を押し戻すことはできない」と答えた。自らの責任は、徹底して認めないのである。虎と狸とキツネが同居したような人物だ。
たまりかねた福島代表の蜂須賀禮子委員(大熊町商工会長)がマイクをつかんだ。
「あなたはどこの会長ですか?…(中略)…“何の責任もないよ”“僕は関係ないよ”としか聞こえない。我々に対する賠償もノラリクラリとかわした。どうして“僕の責任です”と言えないのか。会長を辞めたらどうですか?」
「はい、今度の株主総会で退任します」
「もっと責任ある発言をして下さい」
「大変厳しい、貴重なご意見を頂きました」
傍聴席から失笑が漏れた。どこまでも無責任な勝俣会長だった。
《文・田中龍作/諏訪京》
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