グルジア親露派大物逮捕にチラつくCIAの影

左:在トビリシ米国大使館(周囲は写真撮影が禁止されているため隠し撮り。写真:すべて筆者撮影)右:2003年、シェワルナゼ政権が打倒されたバラ革命の舞台となった、グルジア国会議事堂。同政権時代のロシア国旗に代わって、今はEU旗がはためく

左:在トビリシ米国大使館(周囲は写真撮影が禁止されているため隠し撮り。写真:すべて筆者撮影)
右:2003年、シェワルナゼ政権が打倒されたバラ革命の舞台となった、グルジア国会議事堂。同政権時代のロシア国旗に代わって、今はEU旗がはためく

 イーゴル・ジオルガゼ元グルジア国家安全相(56歳)が9月6日、国家転覆の容疑で警察に逮捕された。政府筋によると、元国家安全相はロシアから資金援助を得て、ロシア諜報機関と共謀しグルジア政府転覆を企てた容疑が持たれている。

 親露派の野党「正義の党」のメンバーら29人も同時に逮捕された。逮捕者の半数は「正義の党」の下部組織の構成員だった。逮捕日時が6日早朝と発表されているだけで、場所は明らかにされていない。

 かつての治安機関トップが統率する反政府組織はグルジア全土に張り巡らされており、逮捕劇は警察官450人を動員する大掛かりなものとなった。

 指名手配中もロシアTVに出演
 ジオルガゼ容疑者は、KGB要員としてアフガニスタン戦争(1981~89年)などでの功績を評価され、15個もの勲章を得た辣腕諜報員である。仏語、トルコ語、セルビア語など6ヵ国語に堪能。旧ソ連の軍人家庭に育ち、スパイになるために生まれてきたような男、との評がある。

 ソ連崩壊後はシェワルナゼ政権でロシアとのパイプ役をつとめた。CIAが画策し同政権を打倒したバラ革命(2003年)は、ジョージ・ソロス氏(ユダヤ人投機家。慈善事業への巨額の拠出でも知られる)がスポンサーだったとして「反ソロス運動」を展開していた。

 ジオルガゼ元国家安全相は1995年に発覚したシェワルナゼ大統領(当時)暗殺未遂の罪でも起訴されており、国際刑事警察機構(ICPO)から国際指名手配されていた。10年余りに渡る「お尋ね者」の身だったのである。

 元国家安全相は国際指名手配の身でありながら、ロシアのテレビに出演していたという。グルジア政府は一斉摘発した「正義の党」の資金源がロシアであるとの見方を強めており、テレビ出演の件と合わせてロシア政府の説明を求める方針だ。

 グルジア手放せないロシア
 グルジアがシェワルナゼ政権崩壊(2003年)とともに一気に親欧米国家となったことは、改めていうまでもない。中東に次ぐ豊かな埋蔵量を持つカスピ海の石油を、トルコに運び出すBTCパイプライン(※)が通過したことで、同国はますます欧米との結び付きを強めている。米国で学んだシャーカシビリ氏の大統領就任自体が、CIAのシナリオだった、との説が当時有力だった。

 しかし、イランを足場に中東への関与を強めたい(地図参照)ロシアにとって、グルジアは戦略要衝だ。トルコがNATOの一角を占めていることもあり、もしグルジアを完全に失ってしまえば、黒海から地中海への出口を失ってしまう。自慢の黒海艦隊も袋のネズミとなる。ロシアがグルジアを手放せないのは、当然だ。

 ワイン輸入禁止、天燃ガス値上げは、親欧米路線をひた走るシャーカシビリ政権に対する強い牽制である。

 強い反ロ感情でクーデター失敗
 元国家安全相の逮捕をめぐる捜査の過程で、グルジア政界では、ロシア治安機関から資金を得ている政治家がいることが明らかになっている。

 黒幕ロシアを相手取ってのこれだけの大捕り物は、小国グルジアの治安機関だけでなしうる業ではない。3年前のシェワルナゼ政権転覆同様、CIAが関与していると見るのが妥当だろう。

 天燃資源に乏しく、さしたる輸出産業もないグルジア経済は、低迷からの脱出口さえ見出せずにいる。失業率12.6%、全人口の半分以上が貧困ライン(1日の生活費が1ドル未満)下にある。

 ロシアとの領土紛争が続いているため、首都トビリシなどに数十万人もの国内難民を抱える。ロシアから輸入する天然ガスの値上がりは、台所を直撃する。国民には不満が溜まっており、反政府運動に火が着きやすい状況にあることも確かだ。

 6日の一斉逮捕の際、警察は「正義の党」の下部組織がアジトに隠し持っていた兵器や現金をビデオ撮影しており、即日テレビで公開した。政府のリスク管理能力をアピールする狙いからだ。

 すご腕のKGB要員でもあった元国家安全相は、ロシアからの資金を得て、親ロ政党とその下部組織をフルに動かして、グルジア国民の反政府感情を煽ろうとしていた。だが、反ロ感情の強いグルジア国民には受け入れられずに失敗に終った。

 

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 本記事は「BBC web」「The Georgian Times」「CIA fact file」などを参考に執筆しました。

 (※)BTCパイプライン
 Baku(アゼルバイジャンの首都)→ Tbilici(グルジアの首都)→ Ceyhan(トルコの港湾都市)を結ぶ

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