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ムハマードさんは蜂起初日の先月25日から家に帰っていない。(6日、タハリール広場。写真:筆者撮影)
「反ムバラク政権」コールが耳をつんざくタハリール広場の真ん中に『エジプトの青年有難う。フェイスブック』と書いたプラカードを持つオジサンがいた(写真上段)。ムハマードさん(50歳)。フェイスブックもメールもやらない。日本にもいる典型的なアナログ親父だ。
ムハマードさんは、若者たちがフェイスブックで「ムバラク政権打倒」を呼びかけ蜂起した1月25日から、タハリール広場を動かない。家にも帰っていない、という。
「ムバラク政権下何も自由はなかったが、若者たちがフェイスブックで立ち上がってくれたんだ」。ムハマードさんは筆者に向かって声を張り上げた。
彼は失業者ではない。文部省に勤めるれっきとした国家公務員だ。日本の新聞・テレビがことさらに伝えるように失業者・貧者ばかりが集会に参加している訳ではない。ムハマードさん同様25日から広場を離れない男性(42歳)は貿易会社を営む。
ムハマードさんに「公務員が反政府集会に参加したらクビになりませんか?」と尋ねた。
「仕事も金も要らない。欲しいのは自由だけだ」。ムハマードさんは吐き出すように答えた。

携帯電話への充電。凄まじいタコ足だ(6日、タハリール広場。写真:筆者撮影)
軍も携帯メールで国民に伝言
携帯電話と充電器が小山のように積まれている。スマートフォンあり、従来タイプありだ。その周りは人だかりができている。中古品の叩き売りでもやっているのかと思って近づくとそうではなかった。携帯電話に充電しているのだ。(写真下段)
当局がウェッブ回線を遮断した後も人々は携帯メールで連絡を取り合い、タハリール広場に集まった。
軍も外出禁止令の時刻変更などを国民に報せるのに携帯メールを使う。ネットは権力にとっても必要不可欠なコミュニケーション・ツールなのである。今回は若者たちが、そのツールを最大限に利用した。
エジプトの回線事情は日本より遥かに悪いが、ネットの力は想像以上に大きかった。
「ネットが火をつけた市民革命」と言って間違いない。
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