1月28日、蜂起後初の金曜礼拝の日だった。タハリール広場には「打倒ムバラク」を叫ぶ十数万人が集いアラーの神へ祈りを捧げていた。衣擦れの音が厳粛さを感じさせる。
広場は治安警察が取り囲んでいた。言論の自由を徹底的に封じ込めるのが役目の治安警察にとって、広場の蜂起は足元を揺るがす一大事である。
治安警察の銃口が火を噴いたのは、祈りが最高潮に達しようとする時だった。銃弾を受けた人たちはバタバタと倒れる。ある男性は頭を撃ちぬかれ、ある女性は胸に銃弾を浴びた。
彼らの死に報いるために青年たちは戦車前の座り込みを解かなかった。犠牲者たちは天から革命を守ったのである。
広場の一角には献花台がしつらえられた。花を手向けに訪れる市民が後を絶たない。殉教者たちよ安らかなれ。
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